国学院大学法学部横山実ゼミ


パソコン遠隔操作に伴う誤認逮捕事件

少年法の視点からの問題提起 (1)


横 山 実

(この随筆は、平成24年10月24日に、このホームページに掲載しました)

他の3件よりも深刻である

 遠隔操作されたパソコンからネット上に犯罪予告された事件で、4名が4つの都府県の警察によって誤認逮捕された。このうちで、神奈川県警によって7月1日に逮捕された都内在住の男子大学生(19歳)の事件は、二つの点において、他の3件と比べて深刻な問題を有している。その二つとは、この事件で逮捕された男子大学生は未成年であるという点と、彼は、少年審判において最終処分として保護観察に付せられ、また、大学から退学処分を受けたという点である。その深刻さを、少年法の視点から指摘しておきたい。

少年捜査規範で定める心がけの欠如

 第1に、少年事件の場合には、犯罪捜査規範第11章「少年事件に関する特則」が適用される。その特則中の208条では、少年の被疑者については、なるべく身柄の拘束を避けることがうたわれている。ところが、1990年代後半から、警察は、犯罪被害者の声に耳を傾けるようになり、少年に対して保護主義的対応よりも、犯行に見あう厳しい対応をとるようになっている。そこで、この208条は無視されて、成人と同様に、犯罪の取調べのために、逮捕を多用するようになっている。また、本件のような逃走や証拠隠滅のおそれがないと思われるような事件でも、警察は取り調べの必要性の見地から、検察官を通して、裁判所に勾留を請求している(刑事訴訟法学者は、取調べの必要性による勾留を否定しているが、実務では広く行われている)。本件では、警察からの情報に基づいて勾留の請求をした検察官が、また、その請求を認めた裁判官が、少年法の理念をきちんとふまえていたのかが、問われることになる(裁判官は、検察官の勾留請求に対して、チェックすることなく、ほとんど自動的に認めているといわれている)。

警察官の取調べの問題点

 犯罪捜査規範第204条では、「少年事件の捜査を行うに当たっては、少年の特性にかんがみ、特に他人の耳目に触れないようにし、取調べの言動に注意する等温情と理解をもつて当たり、その心情を傷つけないように努めなければならない」と規定している。本件では、取調官がこの心構えをわきまえていれば、被疑者の大学生が否認していることを、もっと真摯に受け止められたはずである。ところが、取調官は、押収したパソコンに残っていた痕跡に基づいて筋書きを作り、それを認めるように、執拗に大学生に迫ったと思われる。しかも、少年法61条の規定を悪用して「君は未成年で名前が(公に)出るでる心配はない」と述べ、また、勾留から解放されたいという心理を読み取って「早く認めれば処分も有利になる」と口説いたという(朝日新聞2012年10月20日の朝刊の記事)。この口説きは、否認事件において、「言い逃れをする犯人を絶対に逃がさない」と考える取締官が用いる常套手段であるが、社会的に未熟な未成年者に、虚偽の自白を強要するという結果をもたらしがちである。本件の大学生は、拘束から早く解かれて親元に帰りたいと思い、取調官が提示する筋書きを認めたものと思われる。勾留されていないで、在宅事件として取調べを受けていたのであれば、これは避けられたのであり、勾留の請求を認めた裁判官も責任を問われるべきであろう。

強制された上申書作成

 本件の大学生は、犯行を認めさせられてから、上申書を3通も書いている。そのうちの2通目は、1通目の内容を否定していたが、3通目で再度罪を認めていたという。おそらく、3通目は、再度、取締官に強要されて執筆したものと思われる。取調官は、通常は、被疑者から言い分を聞き取ったら、供述録取書を作成する。本件では、供述録取書を作成する代わりに、本人に上申書の執筆をさせたという点で、問題がより深刻になっている。なぜならば、上申書の場合は、これを受け取った検察官や家庭裁判所の裁判官などは、本人が任意に書いて提出した文書であると思い込み、厳密な証拠調べを怠ることになるからである。

警察全体での少年法の軽視

 今回の誤認逮捕後の不適切な取調べは、取調官個人の不始末というよりも、警察全体が、少年法の理念を軽視して、犯罪捜査規範第11章少年事件に関する特則を無視するようになった結果生じたものである。警察全体で、少年警察活動における人権保障の配慮を再確認にすることが求められる。少年係りの警察官は十分な配慮を行っているが、それ以外の警察官、特に刑事畑の警察官は、その配慮を欠いているので、彼らへの教育の徹底が望まれる。

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